『変身』のあとがき

 カフカ『変身』のあとがきが好きだ。訳者が書いている。

その作品中、ことに有名な、この『変身』の「巨大な褐色の虫」は何の象徴であろうか。答えは無数にあるようだ。そしてどの答えも答えらしくは見えぬ。けだし文学とは、それ自身がすでに答えなのであるから。

カフカ『変身』 訳者:高橋義孝 新潮文庫 平成18年6月10日 98刷

 小説を読んでいると、登場人物や主人公に象徴や意味を探ろうとする。それは読者の解釈であり、正解かどうかを作者に聞くことはできない。だから無数に答えの候補が出る。

 「文学それ自身が答え」とはどういう意味だろうか。作者は答えを書かなかった。答えがあるのかどうかすらわからない。ただあるのは『変身』という文学のみである。