終宴

 なぜか月岡温泉に行き、日帰り温泉にゆっくり浸かり、予約なしで旅館に泊まった。

 

 日帰り温泉では、湯に浸かりながら、今日明日をどうやって過ごそうかと考えた。これを書いているのは3月3日だが、内容は3月1日から今日までのことである。3月2日に妻と子どもはアパートに戻って3人生活が始まる予定であった。つまり3月1日は一人最後の日であった。

 

 このまま帰った場合、この日はアパートで過ごし、翌日妻と子を妻の実家に迎えに行くことになる。もし月岡温泉に泊まった場合、この日は旅館で過ごし、翌日チェックアウトしてから妻と子を迎えに行くことになる。

 

 悩みどころだった。一人のんきに妻と子を迎えに行く日に悠々旅館を出て、迎えに行くのはなんだか申し訳ないと思った。それなら今日は一人アパートで過ごすことにするか。そう思うと、いや、最後の一人の日に、一人でアパートにいても落ち着かないだろうとか、何か普段できないことをしたい、などという考えが浮かんできた。

 

 最後の決め手は心の中での清算だった。他のことで清算することによって、旅館に泊まることを自分に許可した。申し訳ない、という気持ちが帳消しになるような自分が受けている罰や受けるであろう罰。それはひどいもので、自分で作り上げた罰だった。

 

 こんなふうに清算をしないと何かを実行できないなんて、後ろめたいことがある人の特徴なのか、自分に厳しい人の特徴なのか。いや、後者ではないだろう。自分に厳しい人はその場その場で清算することはないだろう。もともと計画を立てるはずだ。清算に行き当たりばったり感がある人は間違いなく、後ろめたいことを抱えて清算をしているのである。

 

 さて、観光案内所に行き、当日泊まることのできる旅館を探してもらい、電話をかけ、泊まることになった。1泊2食付き。

 

 部屋は広く、食べ物は豪華だった。さすが月岡温泉だ。食べ終わると満腹で苦しくなり、部屋で休んでから、夜の街へ繰り出した。

 

 雨が降っていた。金曜日だというのに街は静かだった。入ったスナックは和やかで、一人旅ですか?と聞かれた。おそらく一人旅で訪れる人が多いのだろう。私は一人で訪れたので、はい、と答えた。答えてから、住まいは新潟市であり、一人旅ではなくドライブに分類されると思った。どこから?と聞かれ、新潟市です、と答えると相手も笑っていた。私も笑った。

 

 スナックでお客さんが、楽しくないとつまらない、と言っていた。私はただの逃避野郎に過ぎなかった。課題に向き合いたくないのである。そのために不幸なふりをしていたのだと気づいた。

 

 深夜1時を回ったころ店を出て、雪が降る中、旅館に戻り、朝までぐっすり寝た。

 

 雪が木々に積もり、朝の柔らかい太陽に照らされた月岡温泉は美しかった。

 

 朝食を食べ、貸し切り状態の温泉に浸かり、チェックアウトした。温泉のおかげで大変気分が良くなった。

 

 妻と子を迎えに行き、今日に至る。意外と平和で、ひな祭りのケーキを買い、ちらし寿司を食べた。お雛様の前で妻と子の写真を撮り、終宴した。