贅沢

 小堀旅館に荷物を置き、外に出る。霧雨が降っていた。まだ雪は降っていない。ダウンのフードを被り、居酒屋を探す。

 

 城東閣という通りを抜け、かくみ小路に入る。そこで「まわりみち文庫」という本屋を見つけた。とても良い雰囲気の本屋だった。こじんまりとした静かな本屋。胸が高鳴る。芥川龍之介の『歯車』や『或阿呆の一生』において、彼が本を選ぶ描写を思い出す。内田百閒の『鶴』と萩原朔太郎の『詩の原理』、芥川龍之介全集を買った。

 

 また弘前に来ることがあれば、再度ボードレールについて聞いてみるつもりだ。それはいつになるかわからないし、また来ることができるかもわからない。まわりみち文庫と店員の方(店主かもしれない。あえて聞かなかった。どういう立場であろうと本が好きな共通点のみを楽しみたかった)は、この旅行で大変貴重な出会いとなった。

 

 そのあと「ふぁーすと」という定食屋に寄り、かつ丼とビールを頼んだ。かつ丼は最高に美味しかった。この人生でもっとも美味しいと断言できるかつ丼だった。ここも静かでとても居心地が良かった。外に出ると雪が降っていた。

 

 その後、「花」というスナックに入った。大変よくしていただいた。ママとの会話は非常に楽しかった。妻や子ども、義両親のことも話した。私の外面だけ取り繕う癖についても話した。スナックでは何でも話すことができる。そこがスナックの良いところだ。相手の気持ちに鈍感な私には、ママが楽しんでいるかどうかはわからなかった。

 

 妻の「電話できる?」というラインに返信せず、食べて飲んで酔った。