限界

 朝起きると、彼は家を飛び出した。逃げるように妻の実家を飛び出した。

 

 彼にはもはや限界だった。非常に居心地が悪くなった。そして、ついに逃げるように妻の実家を飛び出したのだった。

 

 彼は平日は仕事をし、休日は生まれて間もない子のために妻の実家に通っていた。妻の実家には、彼女の両親と生まれたばかりの子どもの 4 人が生活をしていた。彼らにとって初めての子どもだったため、彼も彼の妻も、わからないなりに子育てに奮闘していた。子どもはとても可愛く、心から愛していた。

 

 しかし、次第に彼は追い詰められていった。妻や彼女の両親はそのことに気づかなかった。何が彼を追い詰めたのか。それは彼自身の性格だった。

 

 彼は自分に対する自信の無さから、対人関係において自ら壁を作ることがほとんどだった。壁が無いのは妻くらいであった。いや、妻とも初めは壁があったが、結婚して毎日一緒に過ごすうちに壁が無くなっていった。

 

 その壁は、自らをよく見せようとする壁であった。虚栄心から壁を作っていた。自分に自信が無いために、よく見せなければという努力が異常だった。だからいつまでも打ち解けることができなかった。いつまでたっても他人とのかかわり方がよそよそしかった。そのよそよそしい様子は、真面目な印象を与えることだけは成功していた。

 

 自分で壁を作り、自分を追い込んでいった。追い込まれても、ボロが出る恐怖、本当の自分を知られてしまうのではないかという恐怖のために、壁を作ることがやめられなかった。

 

 そして、その日の朝、限界を迎えたのであった。

 

 彼の妻や彼女の両親には突然の出来事であった。何が起こったかわからなかった。いつものよそよそしい態度で一言二言口にした後、急に家を出ていってしまった。

 「信じられない」

 妻は子どもを抱きながら目に涙を浮かべ、急いで立ち去ろうとする彼に向かって言った。

 「ごめんね」

 一言だけ残し、彼は玄関を閉めた。