不毛

 妻の実家に行きたくない。今日は約束していたのに。生後1か月の子どもがいるのに。妻にラインも返していない。義両親に会いたくない。非常に無駄なやり取りが多いからだ。

 

 まず挨拶。無駄。いや、これは無駄じゃないか。むしろ必要だ。必須である。自分がまともな普通の人間ですということを表現できる。にっこり目を合わせて、ワントーン声を高くするだけで。これさえあればよい。他に何もいらない。もう挨拶以外しなくてよいのではないか。

 

 だが変に気を遣ってしまうのである。結局、会えば馬鹿馬鹿しい世間話をするのである。それが面倒くさい。本当に馬鹿らしい。

 

 想像すると心が重くなる。すべてのやる気が失われる。急に息が苦しくなった感覚に陥る。全身から力が抜ける。

 

 それでも、会えば必死になってあれこれ考えて会話を続ける努力をする。会話中、ただただ不毛過ぎて呆れ返っている。

 

 すべては関係を良好に保つためだ。

 

 これがすべてである。このために必死の虚しい努力をしているのである。

 

 何のために?

 

 嫌われたくないから?

 

 私は、他人に嫌われたくない。

 

 しかしこの場合、嫌われたほうが楽になる。嫌われてしまえば、「私のような者の顔を見せるのが申し訳ないから」という会わなくてよい理由ができる。

 

 では改めて、何のために?

 

 わからない。関係を良好に保たねばならぬ理由が31歳の脳みそではわからない。たぶん私がおかしい。大多数の夫は理解していると思う。もうすでに私が異常であることは義両親にも伝わっているだろう。

 

 人の異常さは行動によって明らかになる。いくら誤魔化し取り繕っても行動に現れる。

 

 今日は実家に行く約束をしていたのに。普段掃除しない場所も丁寧に掃除をした。後は家を出る以外にやることがなくなった。とりあえず家を出てカフェに寄ろうか。まずはラインを返さなければ。元気な様子で。やっと会えるという喜びを隠しきれない様子で。

 

「今から向かいます!」